図1で示すように、発達のおのおのの領域で遅れが生じると、それぞれの 発達障害診断がつくことになります。しかし、発達の領域は相互に関係し ていますので、認知の遅れがあれば学習の遅れが生じてくるようになるわ けです。ただし、認知の遅れがなくても、社会性の遅れがあるということ もあり、発達領域にはある程度独立した要素もあります。このように、様 々な組み合わせの形が起きるために、発達障害はその個別性が重要視され ることになるのです。                        今後は、社会性の発達に焦点をあてた、広汎性発達障害について概説しま す。                               
        図1 主な発達の領域とその障害


広汎性発達障害の中心は自閉症です。自閉症は生来性の障害であり、特に 社会性のハンディキャップを有する発達障害です。           現行の診断基準では、次の3つの特性によって規定されています。   
1.社会相互性の障害 2.コミュニケーションの質的障害 3.想像性の障害とそれに基づく行動の障害
以上を最初の提唱者であるローナ・ウイングの名をとって「Wingの3つ組」 と呼んでいます。この3つ組がそろっており、社会生活上困難を来たして いる場合、自閉症という診断をつけることになります。また、これらの3 つ組を有しているが知能発達の遅れがない場合は「高機能自閉症」、同じ く知能発達の遅れがなく、さらに言語発達の遅れもなく3つ組の特性が非 典型的である場合は「アスペルガー障害」と現在では定義されています。 それ以外に知覚過敏性の問題、多動・不注意の問題、協調運動の問題など を併せ持つ場合が多く、広い発達の領域にわたってハンディを生じている のです。

社会相互性とは、人との関わり方とも言えます。ただ単に人と関わらない、 殻に閉じこもるということだけでは相互性の問題とは言えません。たとえ ば、全く面識のない人に対して自分の好きなことを話し始め、相手がびっ くりしたり腹を立てたりしていてもそれにピンとこない、といった状況は 人との関わり方の「質」に問題があると言えるでしょう。
@ 人への関わり方が一方的である 先に示したように、しゃべりたいと思ったときにしゃべることだけしゃべ って後はどこかへ行ってしまう、一緒に遊んでいるようで実は相手はまま ごとの道具・人形のようでしかない、など。人とのやりとりは相手の出方、 言動によってその都度変わるものであり、それによって自分の考えや行動 も変わっていく、これが「相互性」です。自閉症の人はこの「相互的なや りとり」が苦手です。
A 場にふさわしい行動がとれない お葬式では、皆がそろって神妙な顔つきをしています。その状況や雰囲気 を感じ取り自分も静かに座っている、ということをするものです。自閉症 の人は「場の雰囲気をつかむ」ことが苦手です。お葬式で一人笑っていた り話を高らかにしていたり、などの行動をとることがあります。また自分 が周囲からどう思われているかということに気づく力も弱いため、周囲の 指摘を理解できないこともあります。
B 社会常識が身に付いていない 「人の私物を勝手に使ってはいけない」ということは、自然と身につけ皆 で共有する社会ルールです。自閉症の人たちは「暗黙の了解」が理解しに くいため、欲しいと思ったら人のものでもとってしまう、ということが起 こりえます。よって、我々が常識としている行動を具体的に教えていく必 要があるのです。
C 感情認識ができず、概念化が難しい 自閉症の人は、大変な状況にもかかわらずニヤニヤ笑っていたりすること があります。また抽象的な事象を把握するのが難しいようです。 例えば「あ〜仕事がたまって参ったなあ」の「参った」という意味を理解 するのに時間がかかるでしょう。また、他人との感情を共有することも難 しく、相手が疲れた様子であるにもかかわらず、楽しげに笑い続けるなど、 です。共感性の乏しさは自閉症の中核をなす部分です。

コミュニケーションとして我々が使う「言葉」は、自分の考え、気持ちな どを相手に伝える道具です。自閉症の人はこの道具を使うことはできるけ れど、「使い方」に問題があると言えます。
@ 独語、オウム返し 知的障害を伴う自閉症の人でよく見られます。独語はどこかで聞いた言葉 をそのまま反復していたりします。時に、自分の気持ちを切り替えるため に見られることもあり、どのような状況で独語が多いかを見分ける必要が あります。 オウム返しは「エコラリア」と呼ばれ、相手が言ったことをそのまま繰り 返すことを指します。これらは言葉の機能として自分の思いなどを相手に 伝えるための道具となっていないことがわかります。
A 立場によって言葉を使い分けられない 例えば敬語の使い方が誤っている、などです。目上の人に「お前は・・」 と言ってみたり、おかえりとただいまを言い換えられない、などです。 いずれも言葉をパターン的に記憶していることが原因となっています。
B ペダントリー 年齢にそぐわない難しい言い回しをすることを指します。また、パターン 的な表現、細部にこだわった話しぶりが目立つことがあります。文頭に必 ず「いわゆる」と付けて話す、「図書館」と話すと「いや、図書室です」 と訂正したり、などが挙げられます。これらは主にアスペルガー障害でみ られます。
C 理解している言葉の偏り 自分の興味がある事柄については驚くほど知っているにも関わらず、会話 の中でよく用いられる言葉は意外に知らない場合があります。
D 音節・音韻への過度の注意、中枢性統合の弱さ 定型発達者は、ある言葉の意味を知ってしまうと、その意味に束縛されて しまい、それにそぐわない情報はなかなか受け取れません。自閉症では、 この部分に影響を受けないため、意味による拘束はないが音韻にとらわれ てしまうことがあります。国語のテストでは文章中のある特定の音に考え が引きずられ、音韻の似た語(弱肉強食→焼肉定食)や同じ音韻の別の語 (多い→覆い)のことで頭がいっぱいになって問題が解けなくなる、とい うことがあります。 また、ままごとを例にとると、茶碗に盛られた「ご飯」は砂であったり小 石であったりしてもよく、砂や小石をご飯のシンボルと捉えていけること が通常ですが、自閉症の場合は「ご飯」といったら「白いお米」だけがご 飯である、といった認識になっていたりします。
E 行間を読み取ることの困難、慣用表現や比喩がわからない 会話は言葉を省略されることのほうが多く、私たちは文脈の中から意味を 類推することで会話を続け、楽しみます。自閉症の人たちは、言外の意味 が汲み取れず言葉通りの解釈になりがちなことがよくみられます。また、 慣用表現を身につけることも苦手です。例えばお母さんから「そんなこと もできないようじゃあ、赤ちゃんだね」と言われると本気になって「赤ち ゃんじゃない!小学生だ!」と返す、学校の先生に「今日はまっすぐ帰り ましょう」と言われ、「家にはまっすぐ帰れません、○○の角を左に曲が って・・・」と延々と説明する、などがあります。このようなやりとりが しばしばあると、周囲からは「冗談のきかない奴」など言われ時にからか われてしまうこともあります。
F 話し言葉以外でのコミュニケーション(アイコンタクト、ジェスチャー)   の使用の困難さ コミュニケーションは話し言葉だけでなく、非言語的な方法で相手に意思 を伝えることも多いです。私たちが、言葉が通じない外国人相手に対して、 身振り手振りを交えて自分の思いや考えを伝えようとすることを想像する と理解できると思います。自閉症の人はこの話し言葉以外のコミュニケー ションツールを使うことが苦手です。 視線の使い方では、目を合わせない以外にも、過度に顔を近づける、横目 で見るなどの奇妙さが目立つことがあります。また、相手の視線の意味を 理解することも苦手です。ウインクの意味がわからず不思議そうな様子を 見せたりします。握手をする、ハイタッチ(相手と喜びを分かち合う時に するもの)などの意味も理解できず、よくわからないまま周囲の状況に流 されてやっているということも少なくありません。

想像性とは、目の前にはない事象(結果、いきさつなど)を直感的に扱う 部分のことです。私たちは、未体験の事柄に対して、今までの経験や知識 を生かしてその原理を素早く抽出し、どう応用できるかをその都度考え対 応するよう試みます。自閉症の人は、この想像性の発達に問題があるため、 生活上様々な困難を生じています。
@ 考えや気持ちの修正が困難 自閉症の人は、一度始めた手順を変更することが難しくなります。判断に 迷うと、1からやりなおしたりします。テストでも書いた答案を全て消し てしまい、結果的に時間切れとなってしまうことがあります。何とか適応 できているように見えても内心不安だらけの場合もあり、家庭内でイライ ラが爆発することも珍しくありません。
A 見通しのもてなさとそれに基づく不安 めったにない出来事・イベントが近づいてくるだけで落ち着かなくなった り、日常のことができなくなることがあります。時間割の変更や、旅行先 の変更などは著しい不安を掻き立てられパニックになることもあります。 逆に、いつも通り、決まっている事柄には安心して取り組めるのも特徴で す。
B 物事の因果関係を予測しにくい 例えば、ガラスのコップを落とすと割れてしまう、といったことを理解す ることも苦手な自閉症の人がいます。逆に、結果を自分の思い込みで解釈 していることもあり、そうならないとイライラすることもあります。
C 応用が利かず、行動がこだわりとなって現れる 自閉症では、一度習得したスキルを応用できず、あらゆる場面において習 得通りに実行しようとします。これを過度の一般化と呼んでいます。「外 では帽子をかぶる」ということを教えられると、どこへ行くにも帽子をか ぶらないと気が済まない、などが例として挙げられます。
D ルールや規則に過度に忠実 自閉症の人は、ルールや決めごとに対して忠実であり、それを他人にも押 し付けようとすることがあります。校則に違反している人をみるととがめ てしまう、などです。
E 収集、記憶する遊びに固執 自閉症の場合、手順を繰り返したりすることで、安心を得ている場合が多 く、自閉症の子どもの遊び方をみるとブロックを並べたり、ミニカーを収 集したりすることが多く見られます。

・不注意、落ち着きのなさ、衝動性 自閉症の人は、想像性の問題のために新しい場所・場面で混乱し落ち着か なくなったりすることがよくあります。また、社会性の問題から、状況に 応じた行動をとることの理解が難しいとそわそわして動き回ったりするこ ともあります。自分の関心のあるものが目に入ってくると、今までの状況 はおかまいなく、それに向かって走って行ったり、その話題をせずにはい られなくなったりといった衝動性もよくみられます。
・不器用さ 自閉症では指先を使う細かい運動や手足を動かす大きな運動が苦手な人が います。他人には読めないような字しか書けない、奇妙な箸の持ち方をす ることがあります。口やのどの筋肉を動かすことが難しいと、聞き取りに くい発声となったり、食物がよくかめなかったりすることがあります。協 調運動が苦手なので、例えば縄跳び(縄をまわしながら跳ぶ、という異な る行動を同時に行う)やボール投げなどが不得意な子もいます。姿勢を保 持することが難しかったり、幼少時にはつま先歩きもよくみられます。
・感覚過敏と鈍感さ 自閉症では感覚刺激に対する反応の異常がよくみられます。見る、聞く、 かぐ、触る、味わうといった「五感」を処理することに問題があるのです。 多いのが音に対する過敏性です。ある特定の音や声を極端に嫌がったりし て耳を塞いでしまうことがあります。逆にみんなが嫌がる音は平気だった り気づかなかったりと、極端さがみられることが特徴です。 視覚刺激では、光を極端にまぶしがる、逆にキラキラ光るものに見とれる など、の反応を示すことがあります。味覚の過敏性では偏食としてあらわ れます。他にも何でもにおいをかぐ、気に入った肌触りのものを放さない、 など、感覚刺激の異常と考えられることがあります。

発達障害の子どもたち 杉山登志郎 著 講談社現代新書 高機能自閉症・アスペルガー症候群 「その子らしさ」を生かす子育て             吉田友子 著 中央法規